ゆっくりと顔を出し始めた太陽が、静寂を作っていた夜の闇色を少しずつ照らしていく。
五人の妖怪たちが生活している山にも太陽の光が降り注ぎ始め、草木の鮮やかな緑色は陽の光で輝いていた。
青空は透き通るような美しさで、清々しい空気が流れている。
そんな快晴の夏の朝に、すっかり早起きが習慣化している家事当番の妖狼、紫炎は、既に台所に立っていた。
「ふんふーん、ふふーん」
自慢の赤毛の尻尾を揺らし、ご機嫌に鼻歌なんかを歌いながら、慣れた手つきで包丁を操っていく。規則正しいリズムを奏でるように、トントンとまな板と刃がぶつかり合う軽い音が厨房に響いていた。
「よっしゃ」
 役目を終えた包丁を置いて、昆布と鰹でしっかりと出汁を取っただし汁に、切ったばかりの野菜を投入する。
ことことと小さく音を立てる鍋の中に、今度は味噌を溶き入れていく。味噌の色をじんわり広げるようにおたまを使って掻き混ぜると、そのほんの少しを小皿にとって味を見た。
「ん、うまい」
新入りの混血妖怪の好みはまだよく知らないが、これなら大丈夫だろう。
 煮えた味噌汁が乗ったコンロの火を止めると、五つのお椀にそれぞれ均一な量をよそってお膳に置いていく。五つ目を置き終えて、漸く朝食の準備はおしまいである。後はこの朝食を大広間に運び、その足でまだ寝ているであろう四人の妖怪たちを起こして回るだけだ。

何度か厨房と広間を往復して配膳を終えると、新館に向かいだした。
元々旅館であったこの建物は、古くはあるがとにかく広く、立派である。
旧館と新館を繋いでいる渡り廊下を歩いていく。そこから見える中庭は、いつでも季節の花が咲いていて、上品な華やかさを保っている。今の時期だと、青や紫色の紫陽花がよく目立っていて、朝の光を浴び、キラキラと輝いていた。
朝からすっかり眩しい光を放っている太陽を見て、紫炎は満足そうに笑った。
「今日はいい天気だな、洗濯物が良く乾きそうだぜ!」

 渡り廊下を経て新館に入る。自分を含めた住人の部屋が並ぶ廊下の真ん中に立つと、紫炎は思い切り息を吸い込んだ。
「あーさーだーッ!! 起きやがれーッ!!」
 床を踏みしめ、口元に手を添えて拡声器の代わりにしながら、吸い込んだ息を一気に吐き出すように大声で叫ぶ。
 しかし、これしきで起きて来るような簡単なヤツなどはこの寮内には存在しないため、今度は叫びながら各部屋を回っていく。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。